リゼロのナツキスバルがウザイ!に何を見るか?

「マーケティングは創造と科学」をモットーに
結果にフォーカスしたマーケティングを研究している川村です。

1ヵ月ほど前、ちょっとした事から半強制的に「ヒマな時間」というのがありまして、かなり今さらですが「Re:ゼロから始める異世界生活」通称”リゼロ”のアニメを見る事にしました。

異世界ものとしては”転スラ”との二大巨頭だと認識しているリゼロ。

転スラと違って原作も終わっていないと認識してる(違ったらすみません)ので、先が気になるのは嫌だな~っと思って避けてましたが、思いついてしまったので見てみる事に。

原作(文庫本かな?)は完全スルーしてアニメから。僕にしてはかなり珍しいパターン。(いつもは原作かマンガを先に見るタイプ)

どういった内容かと言うと・・・

リゼロとは?

主人公のナツキスバルはひきこもり高校生で、深夜にコンビニに行った帰りになぜか異世界に転生し、そこで出会った銀髪のハーフエルフ「エミリア」に恋をし、彼女を助ける為に尽力する。

その際、転生モノでよくある「チート能力」などは自身に備わっておらず至って凡人のままだが、「死に戻り」という自身が死んでしまったら特定のシーンから強制的にリスタートする・・・ある意味「不死身」の能力を有している。

その能力を駆使して何度も悲惨な「死」にあいながらも、誰も傷つかない未来を掴み取っていくダークファンタジー。

ザックリ説明するとこんな感じだけれど、異世界モノとしてもう1つ有名な「転生したらスライムだった件(通称:転スラ)」とは、その構成が大きく違うことが分かると思う。

転生モノって、僕の勝手なイメージで「チート能力」が「スカッとする」という理由で流行っていると思っていたのだけれど、このリゼロにはそれがない。

周りのサブキャラ達はみんなスゴイのだけど、主人公だけが凡人。一般的な転生モノとは真逆の構成だ。

そしてこの主人公ナツキスバルだけど・・・

主人公ナツキスバルがとにかくウザイ!

のっけから感じる違和感・・・数話まで回が進むにつれ増していく不快感・・・13話あたりまで来ると耐えがたいほどの嫌悪感に襲われて、思わず「うぜぇ・・」と口にしてしまっていた自分にビックリ。

とにかく、典型的な「中二病」コゾーがなぜか出会う人みんなに偉そうな態度で上から目線で接していく・・・その上うまく事が運んでも恩着せがましい事この上ない。

分かりやすく口だけヤローのくせに「死に戻り」という能力のお陰で「失敗をやり直せたから」結果論として上手くいってるだけ。

にも関わらず「オレがどれだけ頑張ったと思ってんだ!」と、周り(ヒロイン含む)に主張しまくるわけです。

相手からすりゃ「1回で成功した事になっている」ので敬意を抱かれるし、それが原因かよく分からないけどすげーモテる設定なのも「ウザイ」と感じてしまう理由かもしれない。笑

や、これは嫉妬的な感情ではなく、マジでこのリゼロという物語は「モテる理由が謎」なんですよ。ろくに会話した事のない奴から突然マジ惚れされたり、会話の脈絡に関係なくなぜかチューしたりと、恋への発展が謎すぎるシーンが多い。

ここまで主人公に対して不快感を覚える話も珍しいってくらい、途中で一度「挫折」して見るのやめたくらいウザかったんですね。

もちろんこれは完全に僕個人の主観なのだが、後から調べてみると出るわ出るわ「うざい!」という口コミの嵐である。

でね?

これらの口コミを見て思ったのですよ。

「んじゃリゼロはなんでこんな人気なの??」と。

リゼロが人気な理由とは?

ここまで多くの人に「ウザイ」と思われている主人公にも関わらず人気があるリゼロ。

これはもうね。マーケターとしては「ウザイから見るのやめた」という感情よりも「なぜ?」という知識欲の方が勝ることになり、”頑張って”続きを見てみました。

結論として、個人的な趣味嗜好としては「あまり好きではない」という結果(ただウザイ!だけだった事を思えばかなり結論は変わった)でしたが、ぼんやりと「人気の秘密」みたいなモノは掴めたと思います。

それを個人的な主観で解説してみます。

ループ×異世界の組み合わせ

異世界モノは山ほどあるしループものも発想としては普通(というかゲームでは常識)だけど、この組み合わせは珍しい(てか初めて?)ってのが1つ。

言ってみれば根幹的な部分としての興味付けとしては十分な要素だと思います。

死に戻り(ループ)に徹底してフォーカスをあてている

さきほど「ループ設定は普通」と言いましたが、設定としては普通だし奇抜な発想だとは思わないけれど、ここまで徹底してフォーカスをあてたモノは初めてなんじゃないかと思います。

それこそゲームの世界では普通すぎて気にもとめない。死んだらセーブポイントからリスタート。これ常識。

だけど、リスタートするからこそ「検証するかのように」徹底して死にまくるのはかなり斬新。

そしてそれを物語の途中で「死んだままだったなら?」というパラレルワールドを見せる事で一気に世界が広がり、同時に主人公が「簡単に死を選ぶのは間違ってる」と方針転換していく部分も含め、徹底してフォーカスあててるな~っと感じました。

この点にフォーカスあてると非常に理解しやすいというか、スッと話が入ってくる。世界が広がっても理解しやすい点は変わらない。これはスゴイと感じた点でした。

これはかなり大きなポイントじゃないかと感じています。

世界観

異世界モノとしてはありきたりな亜人や魔物、魔法、精霊、中世ヨーロッパ風などの設定だけど、リゼロならではの設定に「魔女」という存在があり、この存在がコアとして扱われている。

で、こういった設定はまぁ良いとして、秀逸だと感じたのは「分かりやすい伏線」と「斜め上の設定」という【ギャップ】かなと。

リゼロでは非常に多くの謎があるのだけど、謎が謎として機能するのは「伏線」があるから、その謎が解けることなどを「伏線回収」と言うが、リゼロでも多くの伏線があり伏線回収が行われる。

だけど伏線のほとんどが「簡単に答えが分かるモノ」であり容易に想像できる設定になっていて、実際7割くらい(感覚の話ですw)は「想像通りの結果」なんだけど、3割ほど(感覚の話ですw)は「斜め上の結果」だったりする。

そうすると簡単な伏線さえも「ミスリード」に思えて勘ぐってしまうわけです。これはあれです。ワンピースのパターンそっくり。

この「謎」と「伏線」と「伏線の難易度がランダム」という組み合わせが長期的に引き込まれる理由なんじゃないかと感じた点でした。

主人公を反面教師に

遂に出てきました。ウザくてムカつく重要な主人公。

この「ウザイ」って感情は、「こうはなりたくない」という気持ちを抱くキッカケになる。つまりは反面教師にしようという想いが働くのかな~なんて思ったり。

そうは言っても一応は黄金パターンの「成長していく」という設定はリゼロにもあるので、ダメダメな凡夫が成長して活躍するっていうお馴染みパターンも一応はプラスに働いているとは思います。

ウザさ100点だったのが60点とかにはなるって程度だけど・・・汗

僕の個人的な印象としては最後まで(アニメ2期のラスト)好意的な感情に変わる事はなかったのですが、この黄金パターンを「軸にしていない」のがリゼロ特有の世界観になり、人気につながっているのかな?

ここだけ切り取ると決め手に欠ける要素だったのですが、次の話と組み合わせる事で、個人的には非常に腑に落ちました。

圧倒的にウザイキャラと圧倒的に良い子キャラの組み合わせ

これは本当に”上手い”と感じた部分なのですが、キャラクターの役割分担が完璧なんです。

主人公のナツキスバルは最初からウザイキャラではありますが、最初の方はすでに説明したいくつかの要素で(死に戻りへのフォーカスや伏線など)十分楽しみながら見る事ができます。

ですが、アニメ1期の後半(13話あたりから3~4話)は見るに堪えないくらいナツキスバルはウザイキャラとして描かれています。僕が1度離脱したのもこの辺り。

しかし、この「主人公が徹底的にウザイ」シーンにおいて、対照的に「徹底的に良い子」として描かれるキャラクターがいます。

「レム」という女の子なのですが、リゼロにおいて第二のヒロインと言えるポジションを確立している子で、実はこのキャラクターはリゼロの人気キャラクター投票で「圧倒的1位」を不動のものとしているキャラクターです。

メインヒロインのエミリアは大差をつけられて2位。主人公のナツキスバルに至っては5位ですから、リゼロがいかに特殊な構成なのかが分かるかと思います。

徹底的に「ウザイ」を描き、その対象として徹底的に「良い子」を描く事でより「良い子」が際立つわけですが、まさにこの技法において、胸糞悪い感情は残しつつも「見れる」のです。

このギャップの描き方は秀逸であり、王道手法なのに王道とは逆の使い方(悪を徹底的に描く事で主役の正義が光るってのが王道)って点に奇才を感じました。

しかもリゼロのスゴイところは、この流れのせい(おかげ?)で圧倒的な人気を誇ることになった「レム」を、この直後に「一時退場」させてしまいます。

アニメの2期に至っては「1度も起きているシーンがない」(※偽物は出てきますが)くらいの徹底ぶり・・・(原作でやっと復活したらしい。つまり相当先まで復活しないw)

これが結果的に「好感度最高レベルの状態を維持する」という事に繋がっていると分析してます。

下手にあれこれやらせると賛否両論出てしまいますが、一時退場(ずっと眠ったまま)させる事で最高の状態を維持している・・・まさに「冷凍保管」状態です。

この展開には鬼才を感じさせられました。

その上で・・・・この作者の抜け目なさはとんでもないと感じたのは、このレムが退場している期間(アニメでは2期全て)は、ウザさ最高潮だった主人公のナツキスバルが「王道の成長を見せる」という展開で描くんです。

つまり「滅多に外さない」という王道パターンでナツキスバルの成長物語を描くことで不快感を消し去り、レムによって高められた気持ちを冷凍保存で維持することで引っ張り続ける・・・かなりの策士だと思います。

1期の前半は「死に戻り」にフォーカスする事で「新鮮さ」とダークファンタジーらしさを描きつつ、分かりやすい「謎」を放り込む事で興味付けしつつ、サクッと小さな謎の回収を入れて謎解きしつつも根幹の謎は引っ張り続けて興味を失わせない。

1期の後半に入ると主人公を徹底的に「ウザく」描きつつも「第二ヒロイン(メインじゃないところがキモ)」を徹底的に良い子キャラで描いて好感度を爆上げさせ、見るに堪えないものを見れる状態の綱渡りで引っ張り、ラスト近くで「ハッピーエンディング」っぽく展開して最高潮へ。

本当のラストでは好感度爆上げさせた人気圧倒的1位キャラを退場させるという展開。つまりは2期を見ずにはいられない結末。

そういう引っ張り方をしたくせに2期は全編通して主人公とヒロインの「成長&仲を深める」という物語構成・・・人気圧倒的1位のキャラが結果的に「かませ犬」とか「馬ニンジン」みたいな扱いになってるにも関わらず、王道展開過ぎて疑問を抱かず見ていられる。

その上、盛大に伏線回収やら謎の解明やらを織り込みつつ、その結果新たな謎が生まれたり過去に戻って伏線が判明したり・・・

総論として、リゼロこと「Re:ゼロから始める異世界生活」は、僕にとっては「面白い」よりも「上手い」と感じた点が圧倒的に心に残る作品でした。

これは「マーケティング的な要素」が大いに詰め込まれているので、エンタメとしての好き嫌いより「勉強になった」という意味で非常に満足しております。

続きは大して気にならないけど次はどういう「仕掛け」があるのか?という意味では気になっているので、今後も楽しみに追いかけたいと思います。

以上でした。